エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
上着を着直した私は、美沙さんを覗き込んだ。弟さんのことが心配なのだろう、表情は暗い。

「美沙さんも、この病院で修行中なんですか?」

「私は看護師だから、大学病院の覇権争いとは無縁なのよ。私ができることと言ったら……」

なぜか美沙さんが言葉に詰まる。ごくりと空気を飲み込んで、表情を歪めた。

「……美沙さん?」

「……ごめんなさい。なんでもないの」

苦々しく笑った後、「さ。須皇先生が待っているわ」そう言って部屋の鍵を開けた。

外には、少しだけ不機嫌そうな顔の透佳くんが立っていた。

「須皇先生。外しておきましたよ」

「ありがとう。助かった」

透佳くんが美沙さんから機器を受け取る。私は美沙さんに向かって一礼した。それから、透佳くんにも。

「ありがとうございました。それと、検査よろしくお願いします」

「外まで見送ろう」

「いえ、大丈夫です。お見舞いでも一度来てますし、迷子にはなりませんから」

これから透佳くんはお仕事だ、手を煩わせてはいけない。厚意を丁重に断って、ひとり病院を後にする。

それから会社へ向かって、この日も帰るのは二十三時過ぎになってしまった。
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