エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
『はい、結婚します!』と手放しで決断することもできない状態。

これは悩んでいるといえるだろうか。流されている、それが一番しっくりくる言葉かもしれない。

それでも、以前のように逃れたいとも思わないのは、私のことを大切にしてくれる透佳くんを、半信半疑ながらも信頼し始めている自分がいるからだ。

「……まだ、実感が湧かないのかもしれません」

「彩葉はまだ若いからな。急に結婚と言われても、そんなものなのかもしれない」

彼の手が私の頬に伸びる。

いくつもの命を救ってきた、力強く美しい指先が、私の頬をそっと撫でる。

「俺は順番なんて気にしない」

彼の言葉にぴくりと震え、視線をさまよわせた。

それは、婚約の覚悟と、身体の関係の順番ってこと?

「いっそ今すぐ抱いてしまいたいくらいだが、なまじ大切だと手も出せない。厄介なものだな」

ため息とともに肩を落とす。

抱きたいけれど手が出せない……彼がそんな葛藤をしていただなんて、初めて知った。

「私を抱きたいって……思っていたんですか?」
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