エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
そこには、車椅子に座った権蔵さんの姿。

そして、その車椅子を押していたのは。

「……っ、透佳くん……!」

真っ黒なスリーピースのスーツに身を包んだ透佳くん。

緩く微笑をたたえており、気品溢れる佇まいは、秀麗としか言いようがなかった。

私の存在には気づいているのだろうけれど、こちらに目を向けることはせず、ゆっくりと権蔵さんの車椅子を押して部長へ近づいていった。

総務の女性社員が後ろから追いかけてきて、言いわけのように声をあげる。

「すみません、入口でお止めしたんですが、どうしても社長と部長にお話があるからと言って聞いてくれなくて……」

部長は総務の女性社員を睨んでチッと舌打ちしたあと、わざとらしい声をあげた。

「これはこれは加藤さん。お久しぶりです。車椅子で出社とは、ずいぶんと大袈裟ですね」

一同、息を呑む。

権蔵さんは、毅然とした様子で車椅子に座ってはいるが、手術を経てかなりやつれてしまっていた。

体調はどうですか? とか、大丈夫ですか? とか、そんな気遣いはゼロ。

本当に心無い人だ、誰もがそう呆れた目で部長を見つめている。
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