エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
――黙って大人しく言うことを聞け! クビになりたいのか! ――

自分の録音された声を聞いた部長は、蒼白になる。

これだけで充分訴えるに値する内容だ。

加えて、私や千葉さん、権蔵さんの証言が加われば逃れようもないだろう。

唖然として声も出ない部長に向かって、権蔵さんは自身の腕でゆっくりとタイヤを回し、近づいていった。

「なに。私の要求はシンプルです。労働環境の改善、ただそれだけですよ」

懐から取り出した白い封筒を差し出す。表には『退職届』と書かれている。

「私がこの会社を去ったあとも、私の教え子たちが、伸び伸びと社会生活を送れるように、基盤を整えてあげたいだけです」

権蔵さんが、オフィスを見回す。

そこには、かつて彼が面倒を見た後輩たち――私や千葉さんをはじめとする教え子たちが、期待に満ちた眼差しでじっと彼を見つめていて。

「部長。これは警告です。然るべき対策を取ってくださるのであれば、すぐに訴えを取り下げます」

硬直したまま、ぎこちない動きで退職届を受け取る部長。
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