エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
「表情が明るくなったな」

ハッと顔を上げれば、目の前には穏やかに私を見守る透佳くんがいた。

今こんな顔でいられるのも、全部彼のおかげだ。これまで思い悩んでいたことを、解決してくれたから。

「……まさか透佳くんが権蔵さんと乗り込んでくるだなんて。夢にも思いませんでした」

「加藤さんが言い出したんだ。どうせ仕事を辞めるなら、みんなに働きやすい環境を残してやりたいと。もう自分の手で守ってやることができなくなるからな」

権蔵さんらしいなと思った。自分が辞めて終わりではなく、残された私たちのことまで気にかけてくれたなんて。

「いつの間にそんな話を」

「ん。診察の合間に。うちの彩葉ががむしゃらに働いているんだが、あれは大丈夫なのかと相談した」

あはは、と苦笑いを浮かべる。どうやら権蔵さんからの相談というよりは、透佳くんが権蔵さんに持ちかけたみたいだ。

「彩葉のこともあったから、できる限り協力させてもらった」

「……ありがとうございます。透佳くん」

『私だけ救われたって、意味がない』そう漏らしたことを覚えていてくれたのだろう。

私だけでなく、皆のことを救ってくれた。透佳くんにも、権蔵さんにも、私は助けられてばかりだ。
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