エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
幼い頃から許嫁の存在を聞かされていたから、同級生の男の子を相手に恋をしようなんて考えたこともなかった。

やがて父の会社の経営が傾いて、なんとなく許嫁の約束も反故になったのだろうと悟った。

その頃には両親も、透佳くんの話はほとんど口にしなくなった。

高校生にもなれば、男の子への興味は湧いてくる。デートをしたり、キスをしたり、軽いお付き合い程度の経験はした。

とはいえ、清い交際止まり。そこから先の深い身体の繋がりは、無意識のうちに避けていたのかもしれない。

就職してからはひたすら仕事。恋愛なんて考える暇もなかった。

だから、こうして男性と身体を重ねることは初めて。

彼に対する抵抗はないけれど、その行為自体に抵抗がある。

「……なんで、わかったんですか?」

「そんな顔されたら、嫌でもわかる」

「……ですよね」

恥ずかしくなって目を伏せる。彼は、私以外の女性と身体を重ねたことがあるのだろうか。

……もう三十二歳なんだから、あるに決まっているよね。

なんとなく嫌な気分になって、唇をかみしめる。

ロマンスとは程遠い顔になってしまった私を見て、彼は嘆息した。
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