エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
彼は指先についたバターをペロリと舐めとり、目線だけをこちらに向けた。さりげない仕草すらカッコよくて、朝からクラクラしてしまう。

そんな大好きな彼に、こんな質問を浴びせるのもどうかと思うけれど、どうしても気になって放っておけなかった。

「透佳くんの……昔の彼女って、どんな人だったの?」

「は……?」

透佳くんは驚いたようで、長い睫毛をパチパチと上下させた。

あまりにも脈絡なさすぎだ。私って、質問が下手なんだろうか。

おろおろと目線を泳がせる私に、彼は「何言ってるんだ?」と眉をひそめる。

「……その。ちょっと気になったから」

気まずく頬をかく。やっぱりこんなこと聞くんじゃなかった……。

「あの……いい。やっぱり忘れて」

慌てて訂正しようと、首を横に振ると。

「……忘れたよ。今は彩葉しか考えられない」

彼は短くそう言い放って、スープを思いっきり飲み干した。

なんてシンプルな答えなんだろう。多分、恋人を安心させるには百点満点の回答だ。

けれど、一瞬だけ間が空いたのを私は見逃さなかった。

もしかして、その一瞬の間に、昔の女性を思い出していた……?

嫌なことを考えてしまい、胸が苦しくなる。
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