エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
……わからないことを想像したって、どうしようもないじゃない。

こんなの、疑心暗鬼に陥っているだけだ。今は私のことだけを考えてくれているのだから、それで充分なはずなのに。

彼が出かけたあと、自室のゴミ箱の中から、半分に破れたレストランの名刺を拾い上げた。裂け目をくっつけてひとつにする。

「……沢渡先生、私が来るまでお店で待つつもりかな……?」

ずっと待たれるのも寝覚めが悪い。ちゃんと行かないことを伝えようと、その名刺に殴り書きされた番号に電話をかけてみる。

携帯端末を耳に当て、しばらく待つ。コールが六回、七回、八回――なかなか出てくれない。

ふと時計を見て、まだ八時だったことを思い出した。しまった、朝早くかけすぎた!

しかし、慌てて切ろうとした十回目のコールで繋がってしまい、沢渡先生の『はい』という焦った声が聞こえた。

急かしてしまって恐縮だ。ただ、断るだけなのに……。

私は恐る恐る「早風彩葉です、えっと、須皇先生の婚約者です」と彼にもわかるように名乗った。
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