エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
『……なんだ、あんたか。まったく、何考えてるの。まだ朝の八時だよ? こんな時間にかけてくるなんてバカなの? 容体急変かと思ってびくっとしちゃったじゃん』

タイミング的に最悪だったみたい。「すみません……」と頭をぺこぺこ下げながら、本題を切り出す。

「実は、今日のお約束なんですが、なかったことにしていただきたく――」

『嫌だね』

最後まで言い終える前に却下されてしまい、押し黙る。

『こっちもいろいろあってね……事情が変わったんだ。とにかく来て。絶対来て』

それだけ言い放って通話が切れる。

なんなのだろうか、事情って何? ずいぶん横暴じゃない?

透佳くんもたまに強引でびっくりさせられることがあるけれど……お医者さんって、皆こうなの?

はぁ、と深くため息をつく。もし行かなかったら……ものすごく文句をつけられそう。私の電話番号もバレてしまったし。


その日の十八時すぎ。私は仕方なく家を出て、指定されたレストランへと向かった。

透佳くんには『友人と食事に行ってきます』とメッセージを送っておいた。今日は帰りが遅いらしいから、わざわざ報告しなくてもバレないとは思うのだけれど、念のため。
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