エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
え? と喉の奥から呻きを漏らす。

何を言われたのかわからず、頭の中が真っ白になった。

咄嗟に美沙さんがお腹を抱きしめる。ゆるゆるのワンピースがくしゃっと皺になった。

横で聞いていた沢渡先生が困惑した顔で肩を竦める。

「姉のお腹には、須皇先生との子どもがいるらしい。俺も昨日聞かされたばかりで、驚いているんだが」

透佳くんと美沙さんの間に、赤ちゃんが……?

愕然として、美沙さんのお腹に視線を向ける。

もとが痩せているせいか、お腹に赤ちゃんがいると言われてもわからないくらい細いウエスト。

でも、美沙さんはお腹を守るようにぎゅっと抱きしめている。その姿に母性を感じ、きっと真実だろうと思った。

表情が暗いのは、お腹に命が宿っていると気づいたから? 初めて出会ったあのときは、彼女自身も自覚がなかったのかもしれない。

「そのことを……透佳くんは……」

「知らない。言い出せないそうだ。見て見ぬ振りをされるのが怖いからと」

透佳くんでさえ知らない事実。

果たして、透佳くんはこのことを知ったとして、見て見ぬ振りなどするだろうか。大切な命が宿っているというのに。

……そんなわけがない。あの責任感の強い彼が、命を見捨てるはずがない。
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