エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
これは美沙さんが謝らなければならないことなのだろうか。本来、子どもを宿すことは、おめでたいことだ。喜ぶべきことなのに。

母親になった彼女がこんなにつらい顔をするなんて、間違っている。

でも、素直におめでとうだなんて言えない。それは、透佳くんを失ってしまうことと同義だから。

祝ってあげられない、心の醜い自分に嫌気がさした。

「我々としても、早風さんを振り回してしまったことは自覚している。慰謝料と言ってはなんだが、こういうのはどうだろう」

教授は、ご自身の懐に手を入れた。内ポケットから一枚の紙を取り出しテーブルの上に伏せる。

「早風さんのお父上は、医療機器のリース業を営んでいるようだな。昔は名のある医療機器メーカーだった。私もよくお世話になったものだ。時代の流れとは残酷だな」

そんなことを言って、昔を懐かしむように視線を遠くに向ける。

しかし私は、父の事業の衰退をほのめかされたようで、嫌な気分になった。

顔を伏せると、私の心中を察したのだろうか、「いや、すまない」と短く弁解された。

「私が、お父上の会社に融資しよう。ひとまず、この金額でどうだろう」
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