エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
そう言って、テーブルの上に並べられている食器の合間を縫って、紙切れを私の近くに置いた。

めくり上げて愕然とする。 

それは小切手だった。しかも、とんでもない金額の。

「こ、こんな金額……受け取れません……!」

「受け取るか受け取らないかを決めるのはお父上だ。気に病むことはない。君はその金額と同等の心の傷を負ったのだから。受け取ってくれたほうが、我々も気が楽だ」

とはいえ、はいわかりましたと受け取れるようなものではなかった。

父だって恐ろしいだろう。昔はお世話になっていたとはいえ、こんな金額をポンと融資されてしまったら。

ウェイターが前菜を運んできた。芸術作品のように美しく飾り立てられたテリーヌだ。

しかし、とても手をつける気分にはなれない。お腹を空かせてきたはずなのに、今では胸が苦しくて吐き気がするくらいだ。

「……ごめんなさい。少し、整理する時間をください」

小切手を突き返し、立ち上がり頭を下げた。そのまま逃げるように部屋を出る。

小走りでフロントまで行き、スタッフにペコリと会釈して、そのまま店を出ようとしたところで。

「待てって!」

後ろから響いてきた声に振り向くと、駆け寄ってくる沢渡先生の姿が見えた。

「送ってく」
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