エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
沢渡先生は何かを考えるように、ぼんやりとフロントガラスの奥を見つめる。

しばらく沈黙したあと、ぽつりと呟いた。

「……お腹の子、本当に須皇先生との子どもなのかな……」

「え……?」

あまりにも小さな声だったから、うまく聞き取れなくて尋ね返す。

しかし、沢渡先生は「いや。なんでもない。忘れて」と話を流した。

道が空いていたせいか、マンションへはすぐに辿り着いた。

玄関前の敷地に車を止めてもらったものの、なんとなく帰りたくなくて、憂鬱な気分になる。

時計を見れば二十時前。当初の予定より一時間以上も早い帰宅だ。きっと透佳くんもまだ仕事中のはず。

彼が帰ってきたとして、一体どんな顔で会えばいいのだろう、頭の中が混乱していて、よくわからない。

車を出ようとすると、腕をつかまれ引きとめられた。

「な、なんですか……?」

「涙。止めてから行きなよ。そんな顔、須皇先生に見せるつもり?」

そんなことを言われても。勝手に溢れてしまうのだから止めようがない。

「大丈夫です……透佳くん、まだ病院から帰ってきていませんから」

けれど、沢渡先生は私の腕をつかんだまま放してくれない。
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