エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
してやったりという顔で声をかける。まるでこの状況を狙っていたかのようだ。

透佳くんは冷静な、むしろ異常に冷え冷えとした表情で、沢渡先生を睨む。

「沢渡。彩葉から離れろ」

「どうして命令されなきゃならないんです?」

沢渡先生の態度は反抗的。あえて透佳くんを挑発しているように感じられる。

「彼女が俺のものだからだ。軽々しく触れるな」

「すごい自信だな。でも、本当にそうでしょうか?」

煽るように私の肩を抱く沢渡先生。私はギョッと小さくなって先生を見上げた。

「彼女の心は、もうとっくに須皇先生から離れているかもしれないでしょう?」

視線でチラリと合図され、話を合わせるように訴えられる。

どうやら私が自然な形で透佳くんと別れられるよう、口実を作ってくれているようだ。

けれど、嘘でも「はい」だなんて言えなかった。口を閉ざし困惑していると、沢渡先生はイラっとした顔で私に耳打ちした。

(もうちょっと上手に演技してくんない!? あんた本当に、こいつと別れる気があるの!)

透佳くんを牽制する余裕の笑顔は崩さず、腹話術みたいに文句を言う。
< 212 / 259 >

この作品をシェア

pagetop