エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
「その余裕。どこまで持つかな?」

沢渡先生はそんな捨て台詞を残し、透佳くんの脇をすり抜けて車へと戻っていった。

運転席に乗り込み、雑に方向転換し走り去っていく。スポーツカー特有の激しいエンジン音が辺りに響いた。

残された私は、透佳くんになんと声をかけたらいいのかもわからず立ち尽くす。

「……あの。透佳くん……」

おっかなびっくり彼を見上げると。

「……車を置いてくる。彩葉は先に部屋へ戻っていてくれ」

業務的に言い置き、車に乗り込んだ。そのまま、敷地をぐるりと走行し、脇にある地下駐車場入口へと入っていく。

怒ってる……よね?

私と沢渡先生が密会していたことは事実。下手をしたら、キスの現場も見られていたかもしれない。

このあと私は、どういう態度で彼と接すればいいのだろう。

とぼとぼとマンションの正面玄関をくぐり、高層階専用エレベーターに乗り込んだ。

家に着いた私は、リビングの大きなソファの中央にちょこんと腰を据えて彼の帰りを待つ。

……コーヒーくらい、淹れておいたほうがいいかな?

無駄な気遣いばかりが頭を巡ってしまう。じっとしていることもできずに、私はコーヒーメーカーを起動した。
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