エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
『お父さんはね。彩葉にたくさん勉強させて、立派な社会人になってもらいたかったのよ。経営が傾いたのは自分に学がなかったせいだって、お父さんすごく悔やんでいた。彩葉には自分と同じ失敗をしてほしくなかったのね』

「そう……なの?」

母は頷く。電話越しの声が、わずかに低くなった。

『お父さんの夢は、自分が社長になって、いろいろな事業にチャレンジすることだったの。やっとのことで父親の跡を継いで、いざ夢を叶えようとしたら、ひどい不景気。お祖父さんが社長をやっていた頃は、何をしても儲かっていた時代だったけれど、お父さんの頃は違っていた』

父は、どちらかというと熱血漢。新しいことが大好きで、冒険心の塊のような人だった。

ルーチンワークが嫌いで、難しいことこそやりがいがあると考えるタイプの人だ。

そんなやる気が、時代の流れと逆行してしまったのかもしれない。

つまり、父の夢は、今だ叶えられていないのだ。

「ねぇ。お父さんのその夢って、今からじゃダメなの?」

私の提案に、母は『は?』と素っ頓狂な声をあげた。

「例えばもし、ドドーンと融資してくれる人が現れたら、その夢、叶う?」

沢渡教授から持ちかけられた融資の話が頭をよぎる。

お金なんて受け取るつもりはなかったけれど、もし、それで父の夢が叶うというのなら……。
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