エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
透佳くんのお父さまが、それを見て苦笑した。

「透佳、気が早すぎるだろう。挨拶も済ませる前に書いてきたのか」

私の両親は驚いた顔で、でも嬉しそうに目を瞬かせている。

「彩葉、よかったわね」

母に肩を揺らされて、身体がガクガクと横に揺れる。

私は唖然としてしまって、リアクションなんかできなくて。

「すぐに出そうと思わなくていい。彩葉の気持ちが落ち着いて、覚悟ができたら署名してくれ。それまで、預けておく」

そう言って、透佳くんは手を差し出した。スラッとして力強く、それでいて繊細な外科医の手。

それが、私の手を待っている。仕方なく私は、その手の上に自らの手を重ねた。

綺麗な指が私の手の甲を撫でる。きゅっと包み込み、念を押すようにしっかりと握る。

「……わかり、ました……」

呆然としたまま、彼の手を握り返す。

周囲は完全に私たちの婚約を確定事項と捉えたらしい。式の話まで出始める。

戸惑っているのは私だけだ。私だけが、この婚姻届けをどうしたらいいのかわからず、途方に暮れていた。
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