エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
あの日もらった婚姻届けは、家の引き出しにしまったままだ。右側の欄もいまだ空白。署名する勇気が出ないでいる。

私がどうしても嫌だと駄々をこねれば、きっと婚約は白紙に戻るだろう。

けれど、もし私がOKすれば、両親はすごく喜んでくれる。

それに、不思議と前ほど透佳くんのことを嫌だと感じていない自分がいる。

……キス、しちゃうなんて……。

十数年ぶりの再会だというのに、どうしてあんな大胆なことをしてしまったのだろう。

それに、あの振り袖。

彼はアメリカに留学したあとも私のことを忘れることなく、成人のお祝いを贈ってくれたのだ。

それも、私の好きなひまわりの柄をわざわざ探し回って。

私のこと、大事に思ってくれていたのかな……。

ぼんやりと物思いにふけっていると、斜め前の席に座っていた千葉さんが、電話口で「えっ……! 大丈夫なんですか!?」という大声を上げた。

システムトラブルの予感だ。土日出勤確定か!? 聞き耳を立てつつブルブル震える。

やがて、受話器を置いた千葉さんは、蒼白な顔で立ち上がり、皆へ説明した。
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