エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
権蔵(ごんぞう)さんが倒れて、救急車で運ばれたそうだ。今、緊急手術をしているらしい」

ざわっとあたり騒がしくなる。

私は気が動転してしまい、何を言われたのかしばらく理解できなかった。

加藤(かとう)権蔵さん。親しみを込めて、皆、権蔵さんと呼んでいる。

このブラックな企業に勤めて三十五年の古株だ。そして、唯一の常識人。

すごく面倒見のいい人で、彼の下に着いた新人は大抵生き残ることができる。

部長たちの理不尽な要求を、彼が上手に受け流してくれるから。

彼は若い芽が潰れてしまわないように守ってくれる人格者なのだ。

私も権蔵さんに育ててもらったひとりだ。

仕事を辞めずにいられたのは彼のおかげだし、恩返しするまでは辞められないとも思っている。

権蔵さんが……倒れた?

私は信じられない思いで千葉さんの言葉に耳を傾ける。

「しばらく入院することになるそうだ。自宅療養含め、一カ月くらいは出社できないだろうとご家族から連絡があった。彼の分のタスクは俺が振り分ける。すまないが協力してくれ」

各々、深く落ち込んだ顔で伏せる。
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