エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
「大袈裟ですよ。私はひとりでも大丈夫ですから」

『普通は、夜中に婚約者をひとりで歩かせたりはしないだろう』

婚約者という単語に、ドキリと体を震わす。もう彼の中で私は、ナチュラルに婚約者であるらしい。

『医者になって、どんなに忙しくても後悔したことはなかったが、初めてもどかしいと思った』

「もどかしい……?」

『会いたいと感じたとき、すぐに飛んでいけないだろ』

答えに詰まる。会いたいだなんて……。

私たちは恋人同士ってわけでもないし、そんなことを言い合うような関係でもないのに。変に意識して鼓動が勝手に早くなってくる。

「そ、そこまで心配してくださらなくても、大丈夫ですから……」

『理屈じゃないんだよ』

「はぁ……」

お医者さんである彼が理屈じゃない? おかしなことを言うものだ。

彼自身、合理主義の権化みたいな性格をしているのに。

もしかして、本当はすごく心配症なのだろうか。

ぽつぽつと言葉を交わしているうちに、自宅マンションのエントランスに辿り着いた。

付き合ってくれたお礼を告げると、彼は『いや。かまわない』と素っ気なく答える。
< 44 / 259 >

この作品をシェア

pagetop