エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
ナースステーション近くの個室に、権蔵さんは入院していた。

入口のドアは開いており、透佳くんは「失礼します」とだけ断って、ツカツカと部屋の中に入っていった。

「おお、先生」

奥から権蔵さんの声が聞こえてくる。私がカーテンの隙間からひょっこり顔を覗かせると、権蔵さんは大きく目を見開いた。

「早風! 来てくれたのか!」

ベッドに体を横たわらせてはいるものの、元気そうな権蔵さんの姿がそこにはあった。

以前よりも顔色がいい。少なくとも、仕事で徹夜を余儀なくされていたあの日々よりは、ずっと血色よく見える。

管にたくさん繋がれて酸素マスクをしている姿を想像していた私は、ひとまずホッとした。

点滴もしていないということは、もう自力で食事ができることを表している。

「お元気そうで安心しました」

「さっき心電図が外れたんだ。退院まで、あと少しだよ。なぁ先生」

透佳くんは笑顔で頷く。

「ええ。順調に回復しています。ですが、もう無理は禁物ですよ、加藤さん」

ぎくりと権蔵さんが身を強張らせる。

いつでもふてぶてしい権蔵さんには珍しく、先生には頭が上がらないといった感じだ。
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