エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
「ひどい痛みを感じた時点ですぐに救急車を呼んでいれば、わざわざ開胸することなく、ステントひとつで済んだんですから」

透佳くんがトントンと自分の胸に親指を当てながら言う。

権蔵さんは苦い顔で「面目ない」と頭をかいた。

どうやら権蔵さんは、胸の痛みを感じたにも関わらずしばらく放っておいたらしい。

我慢強い彼らしいと言えばらしいのだが……ご家族はさぞ心配したことだろう。

「治るかもしれないから様子を見ようなんて、もう考えないでくださいね。心臓の治療は時間との闘いです。彩葉。加藤さんをしっかり叱っておいてくれ」

それだけ言い置いて、透佳くんは病室を出ていく。

権蔵さんは「お世話さんですー」と苦笑いを浮かべて透佳くんを見送った。

「権蔵さん、もしかしてずっと痛いのを我慢していたんですか? 仕事のときも?」

私が眉をひそめると、彼は不条理な部長をやり込める時と同じ顔ではははーと笑った。

「軽い胸の痛みは、前々からあったんだ。狭心症が疑われるから、カテーテル検査をしようとは言われていたんだが、検査入院が一泊二日だと聞いて、ずっと保留にしていてね。そんなに休みをとる暇なんてなかっただろう?」

「だからって、命が危ない病気かもしれないのに放っておくなんて。ご家族が心配されますよ」
< 49 / 259 >

この作品をシェア

pagetop