エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
床頭台には、きっとご家族が持ってきてくれたのだろう、家族写真が飾られている。

権蔵さんと奥様、そして中学生くらいの娘さんと息子さん。

だいぶ前の写真らしく、権藤さんの頭にはふさふさとした黒髪が生えていた。

少なくとも、私の入社前であることは確かだ。私は坊主頭しか見たことがない。

ブラック企業に三十五年も勤めてきた権蔵さんは、数々の修羅場を経験してきた。

土日出勤も、徹夜も、家に帰れずカプセルホテル生活をしていた時期もあったそうだ。

これまで、ご家族は心配だったに違いない。

結局、過労が積み重なって、心筋梗塞にまで発展してしまった。

「確かにな。嫁さんには今の会社を辞めてくれとまで言われたよ。この体で、今までのペースで働くのは難しいかもしれない」

奥様の気持ちもよくわかる。もちろん、その歳で転職は難しいだろうけれど、心臓に爆弾を抱えたまま、徹夜なんてさせられない。

それを許してくれるほど、うちの会社は優しくもない。
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