エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
入社した当時は、父の経営も危機的状況で、家計を支えることを一番に考えていた。

だが、生活がそれなりに安定した今、私が必死になってお金を稼ぐ必要はない。転職のチャンスといえば、そうなのだが……。

「でも、権蔵さんへの恩も、まだ返せていませんから……」

「そんなもんいらない。だいたい、その前に、俺が辞めちまうかもしれない」

あっけらかんと笑って言う。全然笑えるところじゃないのに。

「もうすぐお前の人生は、お前ひとりのものじゃなくなるんだぞ?」

そう言って権蔵さんは家族写真を見つめる。

彼の人生は彼だけのものではない、奥様と子どもたちのものでもある。

私の人生も、いつかは私だけのものではなくなる。夫と子どもたちのために生きていく日がくるかもしれないのだ。

「……考えて、みます」

こくりと頷いて、窓の外を見る。強く風が吹いて枝がしなり、花びらが一斉に宙を舞う。

まるで卒業を後押しされているようで、胸がズキンと痛んだ。
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