エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
「今日一日、彩葉さんをお借りします」

「彩葉をよろしくね、透佳くん」

なんとなく照れくさくなった私は、「行ってきます」と早々に玄関のドアを閉めた。

ふたりきりになった途端、彼の声のトーンが下がる。ブラック透佳くんの到来だ。

「これが彩葉のデートスタイルか」

まじまじと品定めされ、嫌な気分になる。昔、ピアノの発表会でドレスを着た時に「似合わない」と言われたことを思い出した。

「似合ってないなら、そう言ってくれてかまいませんよ」

可愛げのない言い方だとは自覚しつつも、パンチされる前に防御した。

しかし彼は、警戒心剥き出しの私に、素直に首を捻る。

「何を卑屈になっているんだ? 振り袖のときとはまた違った印象で、綺麗だが?」

思いもよらぬ方向からパンチを繰り出され、クリーンヒット。

うぐぐ、と唸り、頬を赤くする。こういう褒められ方には慣れていなくて、どう答えればいいのかわからない。

「それとも、綺麗より可愛いと言われたかったのか? 確かに可愛らしくはあるが、今日のお前はどちらかというと美人――」

「や、も、もういいです。ありがとうございましたっ」

冷静な顔で褒められると、いっそう恥ずかしい。

透佳くんたら、昔は絶対にお世辞なんて言わなかったのに。彼の変化には驚かされるばかりだ。
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