エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
結婚式場に併設された、庭園つきの洋風レストラン。

大きく取られた窓からは、よく手入れされた花壇と噴水が見える。外観は白亜の古城のようで、荘厳かつ優雅。

そんな場所に、私は振り袖、母は訪問着、父はダブルのスーツでかしこまって、なんのために集まったのかといえば。

婚約を前提とした両家のご挨拶である。

私たちの目の前には、チェック柄のスーツを着た英国紳士が座っていた。

私の許嫁・須皇透佳だ。

「申し訳ありません。大切な席にも関わらず、父は緊急のオペが入ってしまい――」

彼は丁寧に頭を下げて謝罪する。見た目と同様、態度も誠実だ。

そんな彼の姿に、うちの両親は優しい笑顔を向けた。

「大丈夫よ。お父さまが忙しいことは私たちも知っているわ」

「君が来てくれただけで、私たちは充分だから」

彼の母親は、五つ年下の弟を出産したと同時に亡くなった。以来、彼と弟のふたりは男手ひとつで育てられた。

とはいえ、父親は大病院の医院長。子どもに手をかけている暇はない。

よって、彼の家にはたくさんのお手伝いさんがいた。

うちの両親は彼のことを、片親を亡くした悲劇の子だと思っていたようだけれど、同じ子どもの私から見て、彼が寂しそうに見えたことはない。

なにしろ、大勢のお手伝いさんを付き従えて、王様のように振る舞う姿を毎日のように目撃していたから。

でもそのことは、両親には内緒である。言えば私の身に危険が及ぶ。
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