エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
「とにかく、私たちはいつでも彩葉を連れていってもらってかまわない」

「二十六年も一緒に暮らしてきたんですもの。私たちはもう充分よね?」

突然の子離れ宣言。

ちょっと待って、私のほうがまだ、心の整理がついていない。

「……そんなに、焦らなくても。だってまだ婚姻届けも出してないし」

「籍を入れる前に同居しておくことも必要だぞ。結婚生活の実感が湧かないだろう」

透佳くんの反論にあっさりと黙らされる。父も母も賛成らしく、うんうんと首を上下している。

「それに、新居の方が職場にも近いんでしょう? すぐにでも越した方が、毎日楽よ?」

それは確かに。新居からなら通勤時間が半分で済む上、満員電車のストレスも減る。

でも、そういう問題じゃないでしょう?

だって一度家を出てしまったが最後、もう一緒に暮らすことはないかもしれない。ひとり娘が嫁に行ってしまうというのに、未練はないのだろうか。

「私がいなくなって、寂しくないの……?」

すがるように尋ねるけれど、母は「今だって帰ってきて寝るだけじゃない」と反論。

確かに、両親が寝たあとに帰ってきて、シャワーを浴び、朝はご飯も食べずに家を出る生活。まともな会話をここ二週間交わしていない気がする。
< 80 / 259 >

この作品をシェア

pagetop