エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
「親同士の決めた許嫁――当時は、政治的な意味合いが強かったかもしれません。しかし、今は私の意志で彩葉さんをお守りしたいと思っている。打算などありません」

その誠実な目に、父も母も安心したようだった。

昔からそうだ。両親は彼に全幅の信頼を寄せている。

まだ私が幼稚園で彼が小学校だった頃から、小さいのに優秀で、しっかりしているわね、彩葉のことをよろしくお願いね、と任せきっているのだ。

彼の本性は、私しか知らない。

「……どうした彩葉。さっきからだんまりで」

あまりにも私が口を利かないものだから、不審に思った父が私を覗き込んできた。

きゅっと唇を引き結び、ぴくりとも表情を緩めない私は、見るからに不機嫌そう。

というか、不機嫌なのだ。

なぜなら私は、この婚約に反対だから。

私の無作法をフォローするように、母はホホホと笑う。

「ごめんなさいね、久しぶりにお会いしたものだから。彩葉ったら緊張しているみたいで」

すると彼は、仏のように優しい眼差しでにっこりと微笑んだ。

「かまいませんよ。急なお話でしたから。これから少しずつ、彩葉さんの緊張を解していきたいと思います。美味しいものでも食べれば、元気が出るのでは?」

前菜が運ばれてきて、食前酒のシャンパンがグラスに注がれる。

和やかな乾杯ムードが流れるが、私の膨れっ面、もとい、緊張はそのままだった。
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