全てを君に捧ぐ
「コクられて断るとかさ~…」
背後の女子が、分かりやすく不機嫌そうな声をあげた。
「何様なわけ?」
何様と問われても…。
神様でなければ、仏様でもない。
「要するに、私が告白を承諾すれば良かったんですか?」
「ハァ?」
「良い気になんなよ」
疑問を投げ掛けただけで、何故私が「良い気」になる…。
「大徳クンはねぇ」
黙っていた夏目さんが、にこりと微笑み、私に近づく。
バニラの様な甘い香りに、私は微かな陶酔を憶えた。
「あたし達の憧れなのぉ」
へえ、そうなんですか。
それが何だと言うのですか?
「気に入らないんだよねぇ、岩永ちゃん」
それは、残念ですね。
「大徳クンの気を引こうだなんて、許さない」
何故、私が貴方の許しを得なければならないのか───。
穏やかに揺れていた夏目さんの手が、私の頬を目掛けて───。
私は、簡単にその手を自身の掌におさめた。
「可愛らしい女性の暴力など、私は好きではない」
女のヒステリーなど、犬も食わない。
「気が済まないと言うのなら」
掴んだ夏目さんの手を、ぐいっと引いて、その体を抱き寄せる。
細い。
「好きにしなさい…」
低く、渋く、色気を漂わせた声色で、言葉を夏目さんの耳に注ぎ込む。
夏目さんの頬が、赤い。