【女の事件】とし子の悲劇・3~翼をなくした白鳥
第4話
結局、ダンナは家には帰らなかった。

アタシは、寝室のベッドの上でひとりぼっちで考え事をしていた。

アタシは…

どうして今のダンナと再婚なんかしたのか…

アタシ…

ひょっとしたら…

再婚相手を間違えたと思う…

そんなことを思えば思うほど、気持ちがブルーになった。

アタシは、考え事をしているうちに眠くなったので知らないうちに眠りこけた。

事件は、日付が変わって深夜2時過ぎに発生した。

夜遊びに疲れて帰ってきたあきとさんは、合カギを使って家に入った。

あきとさんは、LEDの懐中電灯を照らして家の中を移動した。

そして、10分後にあきとさんはアタシとダンナが寝ている寝室に到着した。

あきとさんは、ベッドの上に横たわっているアタシをしばらくの間じっと見つめた後、アタシが着ている白のブラウスのボタンをひとつずつ外して、下に着けていた白のブラジャーを取った。

アタシは、深い眠りについていてよくわかなかったけど、あきとさんがアタシの体の上に乗っかって、クリーム色のスカートをくしゃくしゃにした。

あきとさんは、部屋の中で変な声をあげていた。

アタシはねていたので、あきとさんが乗っかっていると言うことにゼンゼン気がつかなかった。

アタシが眠っている間に、あきとさんにレイプされたことに気がついたのは、朝7時頃に目覚めた時であった。

アタシが目覚めた時、白のブラウスとブラジャーがなくなって、クリーム色のスカートがくしゃくしゃになってたその上に、白のショーツが脚の真ん中まで下ろされていたのを見た。

アタシが眠っている間にレイプされたことを知ったので、思わず悲鳴をあげた。

「ギャー!!」

アタシは急いで浴室に行って、ダンナが帰ってくるまでにシャワーで汚れた体を洗っていた。

アタシ…

どうして…

あきとさんに犯されたのか…

何でなの…

分からない…

あきとさんは、眠っていたアタシをシツヨウに犯した後、へーぜんとした表情で職場に出勤した。

ところ変わって、あきとさんが勤務している町工場にて…

あきとさんが勤務している町工場のお仕事は、大手ビールメーカーの工場で製造された製品を箱詰めする簡単なお仕事である。

あきとさんは、高校3年生の時『進学をしたい大学なしで、なりたい職種なし…』と進路書に殴り書きをして、担任の先生に提出した後、卒業式まで遊びほうけていた。

進路未定のまま卒業式を迎えることが確定したので、ダンナがあわてて知人にお願いして、どうにか進路が決まったところが今の町工場であった。

あきとさんのお給料は、お弁当代と保険などから差し引いて、手取り8万4000円である。

あきとさんは、ここへ来てむりがまんをため込んでいたので、働く意欲が低下した。

お昼休みのサイレンが工場内に鳴り響いた。

従業員さんたちは、休憩室に置かれている青いキャリーの中からお給料引きで注文したお弁当を取って、空いている席に座って、お昼のお弁当を食べていた。

あきとさんもお弁当箱を取って、空いている席に座った。

お弁当の箱を一瞬開けただけで、お弁当箱の中の料理を一口も食べずに、お弁当の箱をキャリーに戻そうとしていた。

この時、社長さんがうな重を持って休憩室にやって来た。

社長さんは、あきとさんが座っている席のとなりの席に座った後、優しく声をかけた。

「あきとさん…あきとさん…」
「何や!?何しに来た!!」

あきとさんがとがった声で言うたので、社長さんは困った声あきとさんに言うた。

「あきとさん、どうしたのかなぁ…お弁当食べないのかな?」
「ちょっと…胃がしくしくして…ごはんを食べることができないのです。」
「元気がないのか…それじゃあ、私と一緒にお昼ごはんを食べようか。」
「だから、どうしてあんたと一緒にお昼ごはんを食べるのだよ!!ひとりにしてくれ!!」
「あきとさん、私はあきとさんと一緒にお昼ごはんを食べたいのだよぉ。」
「しつこいジジイだな!!あんたはオレになにを求めているのだよ!?」
「私は、あきとさんの人生設計のことで話し合いがしたいのだよ…」
「めんどくせーのだよ!!」
「あきとさんは、17年間うちの工場で安いお給料に何一つ文句を言わずに箱の折りたたみの仕事だけで通してきたから、ごほうびを与えてあげようと思っているのだよ…せっかくのお昼休みの時間だから、一緒にお昼ごはんを食べよう…私は、あきとさんのおとーさんから頼まれているのだよ…よくがんばっているからごほうびを与えてあげたいのだよ。」

社長さんは、あきとさんにこう言うた後、あきとさんが座っている席のとなりの席に座った。

社長さんは、大きな口を開けてうな重を食べながらあきとさんに言うた。

「あきとさん、せっかくお給料の中から注文をしたお弁当だから、食べようよ…ごちそうだと思って食べればおいしいお弁当なのに、どうして食べないのかなぁ?」
「なーにがごちそうだが…キサマは従業員さんたちにひやめしを押しつけて、キサマだけはヌクヌクとうな重かよ…従業員さんたちを小バカにしているのか!?」
「そんなこと言わないでお弁当を食べよう…ひやめしだと思っているからおいしくないのだよ…ごちそうだと思って食べればおいしいのだよ…」
「キサマはバカか!?」
「あきとさん、どうして私のことをバカ呼ばわりするのだね!!ごちそうだと思って食べなさい!!」
「うるせーなオンボロ経営者!!」
「何を言うのだ!!私のどこがオンボロ経営者なんだ!?」
「オンボロをオンボロと言うてワリーかよ!!キサマはごほうびを与えてあげようかなと言ったけど、手当てを1円も出していないようだな…ここへ就職した時に、あんたは通勤手当てを出すと言うておいて、びた一文も出さなかった…キサマは従業員さんたちをおちょくっているのか!?」
「おちょくりじゃないよ…あの時は、委託先の会社の売り上げが落ち込んでいたから…従業員さんたちにお手当てが払えなかったのだよ…」
「キサマの言うことは口先だけや!!」
「口先だけじゃないよ…私ども経営者も苦しいのだよ…うちの会社を開業するときに家内の実家のお父さまに頭を下げて、開業資金を出していただいた…」
「そういうこすいことするから、工場がかたむくのだよ…クソッタレジジイ!!」
「こすいことはしていない!!」
「やかましいのだよ虫ケラ!!ミミズ!!ひとさまの家からカネを借り入れること自体がこすいのだよ!!」
「それじゃあ、どうすればよかったのだよ!!信金にユウシの申し込みをしたけど、断られたのだぞ!!」
「キサマがヘラヘラしている性格だから断られたのだよ!!」
「だから、貸し渋りだよ!!」
「貸し渋りのせいにするなよ!!」
「だから、家内の実家におカネを返すことと従業員さんたちのお給料を守るだけでヒーコラ言うているのだよ!!分かってほしいな…」
「あんたの言うことは口から出任せや…」

あきとさんは、社長さんに冷めた声で言うた後、お弁当の中身をゴミ箱に捨てた。

「あきとさん!!どうしてお弁当を捨てるのだ!!ごちそうだと思って食べることができないのか!?すぐに拾いなさい!!」
「ふざけるなよオンボロ経営者!!従業員さんたちにひやめしを押しつけて、ノルマばかりをおしつけて、あんたらは影でヌクヌクと何をしているのだ!?豪勢な料理を食べて、オドレの息子のヘージツゴルフや娘のオシャレによおけ(たくさん)カネ使って…従業員さんたちのお給料を喰い物にしたから、天罰だ!!」

あきとさんは、社長さんが食べるうな重にツバを思い切りかけた後、社長さんに背を向けて冷めた声で言った。

「オドレは、従業員さんたちのお給料を喰い物にしているサイテーの経営者や…そのうち、この工場は転覆するだろう…」

あきとさんはこう言うたあと、社長さんを両手でつきとばして倒した。

そして、休憩室をあとにした。

この時、あきとさんだけではなく工場内の従業員さんたちの間で社長さんに対する不満がくすぶっていた。

近い将来に、工場が転覆する事件が発生することは目に見えていた。
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