君は私の光



 そして今、私は家までの道のりをいつもと違う道を通って帰っている。
 別に深い意味はない。ただなんとなくそうしたかった。

 いつもと違うその道は、まだ咲いていない桜の木がトンネルのように一直線に並んでいる。

 私はそのトンネルの中に入り歩き続けた。
 歩き続け、そして時々足を止めた。
 足を止め、上を見上げた。
 そして全く咲いていない桜の木を見た。

 きっと一か月もしないうちに桜は咲くのだろうと、桜が咲いた風景を思い浮かべながら、まだ咲いていない桜の木を見続けた。


 全く咲いていない桜の木を見続けている私は自分の世界に入り込んでいた。


 ……どれくらい経ったのだろう、こうして桜の木を見続けて。

 自分の世界に入り込み過ぎていたからか、上を見上げ過ぎて首が痛くなることを忘れてしまうくらいだった。

 そして、そのとき私は周りが全く見えていなかった。


「あっ‼」


 ……え……?

 気付いたときには何かが私の腕にふんわりと当たって下に落ちた。

 私は一瞬のことで状況がつかめず、ぼーっとしたままだった。


「ごめん、大丈夫だった?」


 え……。

 私は、まだぼーっとしていた。


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