余命一ヶ月の私は、死神に恋をした。
目の前にひとひらの黒い羽が舞った。


「…羽?」

「えーもう死んじゃうの?」



いきなり聞こえたその声に慌てて振り向くと、知らない男の人が立っていた。
…いや男の人、なんだろうか?



「…だ、誰?」

「別に誰だっていいじゃねえか。目の前にいる自殺者救おうとしてる善良な市民だよ」

「し、市民って…だって、そ、それ、背中のそれって…」

「ああこの羽?かっこいいだろ!」




腰に手を当てて自慢げにニヤニヤするその人。こ、怖い…変質者だ、絶対。しかも何でよりにもよってこんな人に見られるの。絶対助けた恩返しとか言って大金要求してくるやつだ。



「( 無視しよう、無視だ。今ならまだ逃げられるかもしれない… )」

「…おい!俺のこの美しい漆黒の羽が見えてねえの!?信じられねえ…あいつ一ヶ月からなら見えるって言ったのに、騙しやがったな…くそ、帰ったらぶん殴ってやる…」



よし、逃げるなら今だ、今しかない。何だか分からないけどブツブツ独り言言ってるし、きっと今なら…
そう思って走り出したのも束の間、いきなり背中にグンッと衝撃が来て引っ張られた。



「どこ行こうとしてんだよ、おい」

「あ、はは…今なら逃げれるかなぁって、えへへ」

「えへへじゃねえよ!ふざけてんのかてめえ」
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