ただ西野くんが好き。
「なに来てんだよ!」
西野くんは斗真くんに気付くとすぐ来て、照れるように斗真くんを見た。
仲のいい兄弟でよかった。
西野くんは1人じゃない。私もいるし弟くんたちも西野くんの味方だよ。と言いたくなった。
「悪い?モテる所拝見しに来ただけ」
「お前な〜まじで辞めろよ」
「タキシード似合ってるぞ」
「お前に言われると気持ち悪いな」
「俺は女子の多さが気持ち悪いけど」
「それは俺も同じ、もうキツくなってきた」
ずっと長袖にタキシードを着てて汗かいてて暑そうだし、ずっとこの状態ならキツいに決まってる。
女子:男子、9:1だし。
モテすぎて嫉妬すら出来なくなってきた。
あ、呆れてるとかそういうことではありませんよ?
西野くんがモテるのは当たり前で私は西野くんがずっと好きでい続けることを信じてずっと隣にいればいいと思った。
「みな……七瀬せんせ、ずっと斗真と話してたの?」
「お前……」
ニヤけてる斗真くん、実は私も笑いそうになった、西野くんが私を『美波』呼びしそうになったことを。
「たまたま斗真くんと会っていろいろ話してたよ」
「何話したんだよお前ー!」
「そんな秘密なことじゃねえよ、気にすんな」
「あ、そう、ならいいや。」
「てか、俺にクレープ作って、タダで」
「タダはダメだわ、だよな、せんせ?」
「うーん、弟くんだしいいんじゃない?」
正確に言えば『彼氏でもあり生徒の弟くんだから』
の方が当たってる。
「だって、早く作って」
「はいはい」
西野くんは舌打ちをしたけど、斗真くんに急かされてクレープを作る。
「ほら」
西野くんが作ったのはツナマヨのクレープ。
所謂おかずクレープってやつ?
「ありがと、これから俺ら3人で学校回らね?」
大きくかぶりついて美味しそうに食べる斗真くんの顔は西野くんに似てる気がした。
「やだよ、2人で、「あーそうだったね」」
「いや、3人でもいいよ?」
「俺は素直に帰りまーす、じゃ、ラブラブデート楽しんでね〜」
軽く手を振って斗真くんは帰った。
「うるせーなあいつ、、、バカな弟で悪い」
「ううん、面白くていいんじゃない?それに西野くんの弟想いが分かったしよかった〜」
「弟想いじゃないけど」
「はいはい、もう仕事は終わったの?」
「おう、12時になったしもう着替えて先生と…「西野!ちょっと来て!」」
文化祭実行委員の伊藤くんからだ。
「はぁ?意味わかんね」
「お願いだから」
「もう疲れた、嫌」
「お前いないと売り上げ減るんだよ」
「もう十分売っただろ!」
「半分まだ時間あるだろーよ、お願いだよ西野」
どうやら午後も西野くんに出てほしいらしい。
所謂看板娘的な役割を担ってるから、言われるのもしょうがない。
結局、西野くんは折れて午後も出店を担当することになった。
でも昼休みで1時間の休みが貰えたから、2人で昼ごはんを食べることにした。
「こんなんのでいいの?」
「なに、こんなのって」
「だから、お化け屋敷でわーー!とかそういうデートじゃなくて、普通の昼休みみたいに昼ごはん食べるだけでいいのかなって」
「美波と2人でお化け屋敷とか怪しまれるし、人多くて話しかけられるの嫌になった。ていうか、お化け屋敷に入りたかったの?」
「いや!いや!そういうことじゃなくて……例えばの話で出しただけ!」
「そうか、いつかは美波が驚いてる姿見ないとな、お化け屋敷デートで行こう。」
「あ〜やめて〜〜」
「ん、美波可愛い」
「恥ずかしい、早く食べよ」
弟くんに続き、屋上でたこ焼きに焼きそばにパンにリンゴジュースを2本買ってのんびり昼ごはんタイム。
普通のカップルみたいに文化祭で一緒にはいられないけど、こうやって人目がいないところで『カレカノ』として颯と居られるのがすごく嬉しい。
「やばい、暑くなってきた」
「もう9月なのにね」
外は太陽が出ていて外にいるだけで汗が出てしまうくらい暑い。
「タキシード脱ぎたい」
「でも似合ってるよ…?」
「そんなことない」
「そんなことあるよ、だから女子生徒がみんなカッコいいなんて言うんだよ?」
「……美波、嫉妬してる?」
「なっ、そんなことないよ…」
いや、これはそんなことあります。
また顔が赤くなる。
「嬉しい、俺だけが一方的に嫉妬してると思ってた。だから、美波はやっぱり俺より大人で余裕があるところがちょっとムカついてたっていうか嫌だったんだよね」
まぁ私は25歳だし、実質、颯の7歳上だから年上だけど。
だけど、ね?
余裕なんて今までなかったし、いろいろ私も不安とかあったんだよ?
とニヤついてる颯に言いそうになったけどぐっと抑えて、
「チュッ」
軽くほっぺにキスをした。
颯は一瞬目を見開いた。
「ほら、こういう反応が大人」
「嫌だ?」
「ん、嫌じゃない、それにこれじゃ足りないよ?」
何度目か分からない深いキス。
最後に頭を撫でられて、
「もうすぐ行かないと、あー、面倒くさい」
「頑張ってね」
颯はタキシードの裾を伸ばして整える。
「美波」
「なに?」
「………いつか本物のタキシード着るから美波の前で」
言った瞬間、颯も顔が赤くなって照れているのが分かった。そして私の返事も聞かないまま去って行った。
「もちろん、待ってるよ……」