ただ西野くんが好き。
2、高校生彼氏が出来ました
ーーーあれから2週間。
西野くんから何も来ない。
少しは西野くんからなんか来ると心構えしてたけど、来なくて安心している。
と思ったのも束の間。
今日は2泊3日のキャンプの日。
3年生だけの恒例行事で受験で大変になる前にワイワイ遊ぼう!という意味でキャンプをするらしい。
でも少し勉強時間も入っている。
魚を釣ったり、キャンプファイヤーをしたり、いろんなゲームもする。
今時の若い子は自然に触れ合う機会が少ないからこういう機会はいいと思う。
でも朝6:00集合で朝が弱い私にはきつい。
少しローテンションで点呼をしてバスに乗る。
で、どうしてか隣に西野くんがいる。
席は特に決まってなくて、自由に座っていいことになっている。大型バスに3組と4組の生徒たちが乗るが、生徒が1人余ることになり、そこに西野くんが「俺、七瀬先生の隣に乗るわー」っていきなり立候補しだすものだから、私はやめて!と思ったけど
時すでに遅しであった。
私は窓側に座ってずっと外を見てる。
というか、それしかない。右を向けば西野くんがいるんだから。
気にしなければいいのだろうけど、気にしない……
なんて私にできるわけはなく。
いきなり交際を迫られ、俺は諦めないとか言われて、気にしないわけない。
キャンプ場までは2時間以上かかる。
朝早く出発したから、寝てる生徒や先生方もいる。
私も早く着いてほしいと願いながら目を瞑る。
そしたら、私の右手に人の体温が伝わる。
私より冷たいけど、人の体温だーーー
「先生、起きて」
その低音ボイスやめてほしい、低くて甘い西野くんの声。西野くんもこの声だと女は落とせるとでも思って必殺技と思って使ってるでしょ。
でも、私も25歳。少し心にはくるけど、これで揺らぐことはない。
私は聞こえてないフリをして、目を瞑ったまま眠りが来るのを待つ。
そしたら、強く握り直す西野くん。
そして、私の首筋に温かい感触。
「ちょ……っとなにすんの!」
「しーーーっ、寝てるフリする先生が悪い」
「寝かせて、後さ離してよ」
「寝かせないしずっとこのままがいい」
意地悪でわがままだ。
何も話すことないし、これからずっと動くっていうのに今のうちに体力温存しておきたい。
「何も話すことない」
「冷たいんだね、先生」
「事実だから」
「じゃ、せめて繋いだままでいいよね?」
「嫌だ」
「正直にいうね、でも俺はしたいの、それに誰にもバレないから」
ーーー結局手を繋いだままキャンプ場に着いた。
また点呼をして、キャンプ場の説明をして、薪割りと魚釣りをする。
キャンプが初めてで、そして結構楽しい。
生徒たちも最初は嫌だーとか言ってたけど、今は楽しんでる生徒達が多くて嬉しい。
夜はお化け屋敷をしようということになり、近くに心霊スポットで廃墟があるからそこに行こうとなった。
私は怖いのが大の苦手で「先生」というコネを使い行かなくてもいいと思った
がーーーーー
2組の真木先生から「残るのは俺と主任だけでいいから、他の先生達は楽しんで!」とかちょっと怖い笑みをこぼして言うもんだから行かなきゃいけない。
私1人では行けない。生徒達と行かないと私ぶっ倒れる。
どの生徒に頼むか迷ってたら、男子生徒が「七瀬ちゃん、一緒行こ!」と誘われて今まで話したことない生徒だったからコミニケーションになればいいかな、と思い、承諾しようと思ったら、
「だめだ、七瀬先生は俺らと行く」
出た、西野 颯。
なんでこうもタイミングよく西野くんが出てくるかな〜
西野くんの隣には山本くん、瀬崎くん、結城くんもいる。
派手な4人組と行くのか、でもなんだかんだ守ってくれそう、山本くんのその怖い目、睨んだら狩られそうな目が今ではすごく頼りになる。
私は4人と一緒に闇に入った。
「だめ、私無理!」
「七瀬、驚きすぎじゃね」
山本くんが私を馬鹿にしてるような感じで言ってくる。この4人はなんにも動じなかった、ただゴール地点までスタスタ歩いてただけ。
一方の私は大きな声を出して、いつの間にか前にいた山本くんの裾や肩を掴んでいた。
「怖くないの?」
「全然」
「すごいね、もう疲れた」
もう部屋に入って寝るだけ。私は木でできているレトロな部屋に入り、お風呂に入って髪を乾かす。
「七瀬先生?」
ドライヤーを代わりに持って後ろにいたのは西野くんだった。
「……なんでいるの?」
「気づかなかった先生が悪い、何回もドアノックしたし、鍵かけないとか無防備すぎ」
ドジな性格が出ちゃった。鍵かけなかったなんて、、、、
「だとしてもいきなり入ってこないで、もう自分の部屋で寝て」
「え?先生と一緒に寝たい」
さらっと爆発発言するよね西野くん。
「何言ってるの!そんなことできるわけないでしょ」
「なのにあいつには肩掴んだり、抱きしめたりするんだ」
あいつ……?誰のことだろうか。私には彼氏もいないし、抱きしめる相手なんていない。
「あいつって誰」
「覚えてないの?奏に抱きついてたじゃん、怖い〜とか言って」
全く身に覚えがない、無意識にやっちゃったパターン……
後で山本くんに謝らないと。
「覚えてない、後で謝る」
「謝らなくていいと思うけど、あいつ喜んでた、俺嫉妬したけど」
「喜ばないでほしいし、嫉妬しないでほしい」
「俺は七瀬先生が好きだから嫉妬する、他の男に触れさせたくない」
そう言って西野くんは後ろから私を強く抱きしめた。
鏡に見える西野くんは目を瞑っていて、私のことを想ってるんだな……って分かるくらい強く抱きしめている。
強く抱きしめられているからか、西野くんを見てか分からないけど、胸が苦しくなってきた。
「西野くん、離して……」
西野くんは素直に私から離れた。それでも残る胸の苦しみ。
「俺、ドライヤーしてあげる」
髪を乾かすの途中で終わっていた、いや、途中で終わらせられたのを西野くんが最後まで乾かしてもらった。
私はストレートロングヘアーだから乾かすのは時間がかかる。それに、西野くんは私の髪だけを見ていた。
髪を触られる度に肩が動きそうになってしまった。
なんか、西野くんにドキドキしている私がいる。
そんな大きい瞳で見られたら、ドキッとしちゃう…
この瞳に何人ものの女子がやられたんだろうなと想像できる。
「七瀬先生、可愛い」
こうやってドキドキさせるの上手だね、西野くん。心臓に悪い…
でも生徒と教師!!!しっかりしろ私、今は教師モードじゃないと!
「西野くん、もう夜10時だよ、帰って」
「七瀬先生、なんでそんな冷たいの?」
「冷たくない、これ普通」
「あのさ、こういう態度取られても俺は諦めないし、もっといじめたくなる」
「うわっ……えぇ!?」
後ろの次は前から抱きしめられてます。後ろより距離近いし、西野くんがつけているであろう、爽やかな柑橘系の香水の匂いが、また心臓を苦しめさせる。
「お願いだから、俺んとこ来て」
西野くんの目を見ると本当に堕ちてしまいそう。
それに揺らいでしまってる自分がいる。
高校生であることはわかっている、それでも真っ直ぐ私を見てくれている感じがするし、ずっとこの瞳で私を見てほしい……
そしたらいきなり
「七瀬先生、いますか!佐々木です!」
「どうされました?」
「3組の西野がいないんです、見回りに行ったらいなくてどこに行ったか聞いたら分からないと言われて」
ドアを開ける寸前で事情を聞いてドアを開けるのをやめる。
西野くんはここにいる。バレたらトラブル発生になってしまう…西野くんを隠そうとも隠す場所がない。
「やばい、俺忘れてた」
私も正直忘れてた、10時見回りの時間だということに。
「いいから、どっか隠れて!」
「それより、返事聞かせて、俺んとこ来る?来ない?いや、来て、絶対来い」
なんで命令形になる?選択肢がないのはおかしい。
「今そんな状況じゃないでしょ!」
「七瀬先生、なんかありました?」
ドアを開けないとまずい。
「俺んとこ来るって言うなら、この状況を打破するよ」
「私でなんとかするから!」
「できるの?」
いや、出来そうにない、本当に隠れる場所がないんだから。
ここは一回従って、後で撤回すれば良いかな。
「分かった、付き合う」
「七瀬先生、いい子」
そう言って、西野くんはドアを開けた。
「なんで西野くんがここに?」
「俺、七瀬先生から勉強教えてもらってました」
「あ…そう……もう部屋に戻ってね」
「分かりました、でももう1問で終わるんでそれだけ終わったらでいいですか?」
「分かったわ、すぐ出るのよ、後七瀬先生、本当はだめだから今日だけですよ」
「分かりましたすいません」
佐々木先生はドアを閉めた。
私はホッとため息を溢した。そして気付く。
私だって言えることじゃないか。私が冷静になっていれば西野くんに頼る必要なんてなかった。
あの時少しパニックになってた自分を猛省する。
「西野くん、付き合うのやっぱやめよ、わたしさっきはパニックなってただけで…」
「え?そんなのなしに決まってる、俺を馬鹿にしないで、俺は本気だから」
「でも生徒はやっぱダm…」
「1人の男して見て、俺はもう1人の女性として見てんの」
「バレたら退学の可能性もあるんだよ?」
「七瀬先生のためならいいや」
「そんなこと言わないの!」
「本気だから、七瀬先生のことは俺が守る、だから付き合ってください、七瀬先生」
「……分かった、西野くん」
もう西野 颯に捕まってしまいました。