みずあめびより
「・・・じゃ、俺風呂入ってくる。眠かったら寝室で先に寝てていいから。」

鈴太郎は名残惜しそうに衣緒から離れた。

「いえ、待ってますよ。」

「無理するなよ?」

「はい。」



鈴太郎がお風呂から上がると衣緒はソファに座ったままうとうとしていた。

「無理するなって言ったのに・・・。」

「あ、お疲れ様です・・・。」

衣緒はそう言いながら立ち上がる。

「『お疲れ様』って仕事じゃないんだから・・・。」

「美容院でシャンプーしてもらった後、席に戻る時、美容師さん達が『お疲れ様』って言ってくれる・・・あふ。」

「あくびしてるし。しょうがねえな。」

鈴太郎は彼女をゆっくりと抱き上げた。

「え!!!!!!重いですよ!!!鍋の何百倍も!!!」

───むむむ無理!!こんな・・・!!

衣緒は大慌てで彼の腕の中でもぞもぞと動く。

「そんな重いわけないだろ。大人しくしろ。」

念を押すように抱く手に力を込めて言う。

「で、でも・・・!」

───葉吉さんの声が、胸が、腕が!!

体の動きは何とか止めたが、大いに暴れる心はどうしようもない。

寝室までが長く感じられた。ベッドの上に優しく下ろされる。

「今日はちゃんとここで寝ろよ・・・おやすみ。」

鈴太郎は衣緒の唇に一瞬のキスをすると、ベッドから離れた。

「・・・葉吉さんはどこで?ソファは駄目ですよ。」

眉を(ひそ)めて言うと彼は苦笑しながら答える。

「前の時は自分の為にマット敷くの面倒だったけど、今日はここで。」

クローゼットからマットレスを出し、ベッドの隣に敷き横になる。

───本当は一緒にベッドで寝たいけど・・・。衣緒疲れてそうだからな。別々の方がゆっくり眠れるだろう。

「・・・おやすみなさい。」

「おやすみ。」
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