みずあめびより
朝食を終え部屋に戻ってくる。

「今日は家でゆっくりしないか?出張の疲れもあるし天気も微妙だし。」

「はい。」

鈴太郎の提案に衣緒もうなずいた。



ネットで映画を観たり、一緒に雑誌を見たりしているうちにお腹が減ってきた。

「・・・お昼ご飯、何か作ってもいいですか?」

衣緒がおずおずと申し出る。

「・・・料理苦手なんじゃないのか?」

「そうです。でも、嫌いなわけではなくて・・・作るのは簡単なものだし、手際も悪いんですけど・・・作りたいなって・・・。」

「食材も道具も好きに使えよ。」

───苦手なのに俺の為に作ってくれるって・・・かわい過ぎるな・・・これは、まずい。

彼女を直視出来ず見終わった雑誌に目を移す。

「ありがとうございます。」

衣緒はそう言って立ち上がった。


冷蔵庫に残っていたくたびれかけた野菜とウインナーを使ってポトフを作り、キャベツと卵をバターで炒め、パスタを茹でて缶詰のミートソースをかけた。手際はお世辞にも良いとは言えない。

それでもなんとか作り終えたことにホッとしてテーブルに運ぼうとすると、急に後ろから抱きしめられて驚く。

「な・・・!?!?」

「一生懸命作ってるところがかわいくて・・・でも料理中は邪魔できないし。」

鈴太郎の切羽詰まった声が後ろから聞こえてきてドキドキする。

「さ、冷めちゃうから食べましょう?」

───このままじゃドキドキが聞こえちゃいそうで・・・。

「無理。1分だけ。」

彼はそう言って抱きしめる手に力を込めた。

「もう・・・。」

「あ、それもかわいいからやっぱり2分で。」

「えぇ・・・。」

「はは、わかったよ。頂こうか。でも、その前にこっちを頂く。」

そう言って鈴太郎は衣緒の体を回転させ、驚いている彼女の唇にちゅっと音を立ててキスをした。
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