みずあめびより
「わかってる。二人の中で、もうすっかり過去のことになってることは・・・。だけど、この人と3年も付き合って、色々な話をして、色々なところに行ったんだろうな・・・とか想像するとなんていうか・・・。や、俺達もこの歳だからお互い恋愛もしてきてて、こういうのはお互い様なんだけど、直接相手に会っちゃうとさすがにきついっていうか・・・。それに、」

一度言葉を切って彼女を見つめる。

「はい。」

「衣緒が敬語じゃないの初めて聞いたし、下の名前で呼んでて、うらやましかったっていうか・・・。」

「そ、それは・・・付き合ってしばらく敬語でしたよ。」

「そうだろうけどさ・・・。」

動揺した衣緒の言葉に、鈴太郎は拗ねるように言って下を向く。

「・・・葉吉さん。」

「え?」

衣緒は身を乗り出して彼の腕を引くとその唇に初めて自分から触れた。

不器用だけれど丁寧なキスだった。

溢れる想いがこぼれないように大事に大事に伝える。

鈴太郎は最初は驚いて固まっていたものの、状況を把握すると力を抜いてキスを受け入れた。

「・・・今はこれで許してください・・・。」

離れてから下を向いて言うとそのまま抱き寄せられ、頬に手を添えられる。

「・・・許す。」

今度は鈴太郎からキスをする。

元彼に会ったからなのか、今までにはなかった独占欲が含まれた、気持ちをぶつけるような激しいキスになっていた。

感情がむき出しのままの触れ合いに衣緒は今までは気持ちを抑えて手加減されていたのだと気づく。

ドキドキして心地良くて溶けてしまいそうだった。
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