みずあめびより
翌週のある日、鈴太郎が遅い時間に帰ってきた。連日のことだった。

「お帰りなさい。今日も遅かったですね。」

「ただいま・・・先に寝てて良かったのに。」

玄関でいつも通りにハグをするが、鈴太郎は疲れた様子で衣緒に軽く腕を回しただけで、すぐに靴を脱ぎ始めた。


「お疲れ様です。大丈夫・・・じゃないですよね。」

「あー、ちょっと仕事たて込んでて・・・。」

リビングに入るとソファにもたれかかり力なく言う。会社では見せない疲れた顔をしていた。

「そうですよね・・・仕事、私に出来ることあったら何でも言ってくださいね?」

───こういう時、同じ会社で良かったと思う。

「ああ、ありがと。」

「お風呂入りますよね?追い焚きして来ます。」

「今日は疲れてるから明日朝シャワーにするよ。」

「・・・そうですか。何か飲みますか?」

言いながらキッチンに向かう。

「・・・水、お願いしていい?」

「はい。」

冷蔵庫から水のペットボトルを取り出しコップに注いで彼の前に置くと、彼の肩をマッサージする。

「凝ってますね・・・明日の朝、面倒でなければ湯船に浸かった方がいいかと・・・。」

「出来たらそうするよ・・・あ、明日は取引先と飲みに行くから、今日よりは帰り早いかも。」

「取引先って・・・。」

帰りが早い、ということへの喜びよりも、嫌な予感への懸念が一瞬で心を支配した。

「こないだ来た三坂さん。新商品のことで。」

嫌な予感が当たってしまい、衣緒の心は強張った。

「お二人で、ですか・・・?」

───やだ、なんで私・・・。

思わず聞いてしまってから激しく後悔する。

「?北岡も一緒だけど?あいつも担当なのに、また仕事詰め込みまくって先週もミーティング出られなかったんだよな。」

「そうですか。」

───やっぱり考え過ぎだよね。

衣緒はホッと胸を撫で下ろした。



翌日夜7時半。

今城が帰り支度をしながら隣の北岡に声をかける。

「あれ?北岡、行かなくていいの?今日三坂さんと飲みに行くんでしょ?葉吉さんもう行っちゃったけど。」

「え?俺知らねーよ?」

翌日提案するプレゼン資料を作成していた北岡がパソコンから顔を上げて答える。

───え!?!?!?

キーボードを打つ衣緒の手が止まる。
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