みずあめびより
突然大声を出した衣緒に男達が驚く。

「え?何だよ?」

「あそこに、うちの猫が・・・!!」

衣緒は路地の暗闇を指差しながら言う。

「・・・?何もいねーじゃん?」

「暗闇には宇宙があるんです!あの宇宙の中に猫が・・・。」

「・・・へ?」
「・・・もしかしてちょっとやばい子?」

真剣な眼差しで言うと男達が(いぶか)しげな表情になった。その隙に走り出す。

「あー!行っちゃう!待ってー!!リンくーん!!」

架空の猫の名前を叫びながら大通りまで来るとタクシーを拾って家の方向に言ってもらうように告げる。

───はぁ。もう、三坂さんとどこか・・・そういうところとかに行っていてもいいから、とにかく無事でいてほしい・・・。

窓から流れる景色を見ながら、膝の上でワンピースをぎゅっと握りしめて祈った。



家に着くと4時になるところだった。

玄関に座り込むと不安と無力な自分への怒りがじわじわと押し寄せて涙がこぼれてきた。ポタポタと落ちる雫がワンピースに染みを作る。


30分ほど経った頃スマホが震えた。とっさに反応できずにいたが、我に返るとスマホケースを開いて電源ボタンを押す。

通知バーが鈴太郎からのメッセージが届いたことを知らせていた。メッセージが途中まで表示される。
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