みずあめびより
「!?!?いやいやいやいや!!」

衣緒は慌てて椅子についている滑車を利用してコロコローッと後ずさりした。

「いやいやいやいやいや!!」

鈴太郎も同じ事を言いながら逃げる彼女の椅子の座面を掴んでグッと自分に引き寄せた。

「駄目です、ここ会議室、会社ですよ!」

衣緒が顔を真っ赤にして、両手の平をその前に出し待ったをかけると、鈴太郎はその手を掴み拗ねたような視線を彼女に送る。

「今、する場面だろ・・・屋上ならいいのか?前、新貝と・・・。」

「あれは・・・その、不可抗力で・・・ほっぺだし・・・。」

「ほっぺならいいわけ?」

「よくないですよ!」

「・・・衣緒はしたくないのか?」

掴む手に力を入れて顔を覗き込んで言う。

「そそ、そういう問題じゃなくて・・・。」

「したいかしたくないかで言ったら?」

鈴太郎に心の中を見透かすように見つめられ衣緒は正直に言うしかなかった。

「し、したいけど・・・駄目です。」

その気持ちを認めてしまうとよりしたくなってしまう。

「衣緒の、そのくそ真面目なとこ好きだけど、今だけ解除してくれないか?」

「む、無理ですよ・・・。」

目を逸らして俯く。

「絶対に?」

衣緒の顎に手を当てて上を向かせ、目線を合わせながら言うと消え入りそうな声が返ってきた。

「・・・さんびょう・・・。」

「え?」

「・・・3秒までならセーフです・・・。」

無理矢理目線を逸らしながら言った彼女の言葉に鈴太郎は思わずふっと微笑んだ。

「3秒ルールかよ・・・。」

言い終わると同時に静かに唇が重なった。
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