みずあめびより
「・・・ん、ちょっと!長い・・・ですよ・・・。」

衣緒は唇を離して言う。何度もキスしているはずなのに場所が場所だからか初めてみたいにドキドキしていた。

「いーーーーーーーーーーち、にーーーーーーーーーーい・・・って数えてたから、まだ3秒経ってねえし・・・。」

鈴太郎は熱っぽい目で彼女を見つめながら言う。

「そんな・・・。」

「じゃあもう一回やり直す。」

再び唇がふさがれた。いきなりの深いキスに胸の鼓動が急加速していく。

「・・・続きは(うち)で。」

3秒後、鈴太郎が至近距離のまま、いたずらっぽい表情でささやくと、衣緒は頬を膨らませた。

「・・・『続きはWeb(ウェブ)で』みたいに言わないで下さい・・・。」

「ぷっ。」

「リップついちゃってます。」

吹き出す彼の唇をティッシュでふくと頬に口付けられる。

「今度はチークがついたか?」

「もう・・・席戻りますよ。あと20分で始業です。」

腕時計を見ながら言うとその腕を掴まれた。

「今日定時に一緒に帰ろう。会社から車乗って。」

「え?誰かに見られちゃうかもしれないですよ。」

「もういいんだ・・・いずれ・・・。」

そう言って口をつぐんだ鈴太郎を衣緒は不思議そうに見つめた。彼のその言葉の先にあるものを確認しようとすると、彼は念を押すように『待ってるから。』と言って立ち上がりドアに向かった。



定時を少し過ぎて仕事を終わらせ、周りを見回しながら駐車場に行くと鈴太郎が車で待っていた。

「お疲れ様です。」

「お疲れ。眠いだろ?」

「仕事中は気を張ってましたけど、緊張が切れたらもう・・・。」

衣緒は目に手を当てて眠そうに言った。

「後ろで寝てろ。家着いたら運ぶから。夕飯出来たら起こす。」

「え?いや、着いたら起こして下さい。夕飯だって久しぶりに平日一緒に食べられるなら私が・・・葉吉さんだって昨日飲んだしソファで寝たから疲れてますよね?」

「いいから。」

鈴太郎は車から降りてくると後部座席のドアを開けて衣緒を寝かせ、用意していたブランケットをかける。

「おやすみ。」

髪を撫でておでこにキスを落とすと、彼女は目を閉じた。
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