みずあめびより
「俺・・・今まで恋愛に夢中になったことなんてなかった。もちろん相手のことは好きだったけど、もっと一緒にいたいとかあまり思わなかったし、別れても寂しいと思うくらいで落ち込むってこともなくて・・・。相手を求める熱が足りないっていうか。いつかは彼女とは終わるんだろうなって、どこかで考えてた。だから冷たい人間なのかな、とか思ってた。でも衣緒に出会って、自分の中から止めどなく湧き上がる気持ちみたいなのを知って・・・終わることなんて考えられなかった。むしろ、歳をとっても一緒にいる未来を考えた。」

「リンくん・・・。」

衣緒も手を止めて鈴太郎を真っ直ぐ見つめ返した。その瞳は潤んでいた。

「私もね・・・前の彼の時は基本的に受け身だった。会いたいとか一緒にいたいって言ったり、自分からくっついて行ったりとか出来なかった。積極的に付き合えてなかった。さらに相手の気持ち考えられなくて甘えて依存してた・・・。ひどいよね。」

自虐的な表情になり床に目線を落とす。

「でも、今は違うだろ?」

「違うかな?・・・私、リンくんのこと少しは支えたり出来てる?役に立ててる?」

衣緒はそう言いながら恐る恐る目線を上げていく。鈴太郎と目が合うとそこには優しい眼差しがあった。

「当たり前だろ・・・結婚しようなんて中途半端な気持ちじゃ言わないよ。ただ一緒にいるのが楽しいからとか、単純な話じゃないんだ。」

力強いその言葉に涙がこぼれる。

「ありがとう。私がそういう風に思ってもらえるようになれたのは、リンくんのお陰だね。」

「俺こそ衣緒のお陰だよ・・・まったく、今日はよく泣くな。家の中にいても熱中症なるんだからちゃんと水分と塩分補給しろよな。」

鈴太郎は照れ隠しで少し乱暴に衣緒の目尻の涙を拭った。
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