みずあめびより
お祭りびより 再び
「カタカタカタ・・・」

───よかった。目標の時間までに終わりそう・・・。

衣緒はキーボードを叩きながら時計を見上げるとホッと胸を撫で下ろした。

7月中にお互いの親に挨拶に行き、8月の夏休みに両家の顔合わせであるささやかな食事会を終えて9月になっていた。

業務を終えてパソコンをシャットダウンし、給湯室でマグカップを洗ってくるとリュックの持ち手を持って席を立った。

「お先に失礼します。」

「お疲れ様でーす。」
「お疲れー。」
「お疲れ様。」

席にいた社員──派遣期間が満了し契約社員となった玉川、隣の席の今城、そして鈴太郎が挨拶を返す。

最近今城が衣緒に頼む仕事の量は格段に減っていた。

そればかりか彼女はロングのパーマヘアをバッサリ切ってショートカットになり、まつげエクステをふんだんにあしらっていた目元も、随分と控えめで涼しげになっていた。

真中はそんな彼女を見て「失恋しちゃったんじゃないのぉ?」などと言っていたが、衣緒と鈴太郎としてはむしろ逆なのではないかと踏んでいた。

ロッカーに入れていた残りの荷物をとり、出口でカードをタッチして退社時刻を記録し、ドアを出ようとすると真中とすれ違った。

「あれー?彩木さん早退?」

「はい、お先に失礼します。」

「お疲れぇー。」

真中はいつになく早足で歩き去る彼女の後ろ姿をじっと見送った。
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