みずあめびより
「おーヨシリン、彩木さん今日早退なんだ?珍しいなぁ。」

「・・・用事ぐらいあるんじゃねぇか?」

アイスを食べながら鈴太郎に話しかけると彼はPC画面を見たままそっけなく答えた。

「歯医者とかかなぁ。でもなんかそわそわしてたぞ。彼女、少し変わってるから、歯医者好きなのかもしれないな。」

「・・・それより真中、さっきもアイス食べてなかったか?」

「あーあれは新商品。ブログの撮影用のを最後まで美味しく頂いたんだよ。で、これはおやつ。そうそう、俺動画配信も始めようと思ってんだよね。やっぱり今の時代は動画だろ?」

「いいんじゃないのか?にしてもお前こそ歯医者行った方がいいよ。ダラダラ食いは虫歯になりやすいっていうし。」

そう言うと真中は大きなお腹を突き出してふんぞり返り、ドヤ顔になった。

「ふっふっふ、いいか、聞け。我が家は3ヶ月に一回、家族で予防歯科に行ってるんだよ。」

「おお・・・それはすごいな。」

「だろ?虫歯なんかになって美味しいもの食べるのに支障が出たら困るからな。だからうちは家族全員歯はピッカピカ、腹はパンパンなんだよ、ガッハッハ!!」

真中は誇らしげに笑った。

「・・・さすがだな。」

「だろ?真中家の人間たる者、常に万全の状態で食べ物に挑まねばならんのだ。」

「・・・。」

───家族、か・・・。

衣緒の席に目をやると自然と笑みがこぼれてきた。
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