みずあめびより
定時に退社し待ち合わせ場所の区役所前に着くと衣緒は既に来ていた。

白地に水彩画のような淡い色で小さめの花が描かれた浴衣に、落ち着いたコーラルピンクの帯と同じ色の鼻緒の下駄、長く伸びた髪をアップにして押し花を使った髪飾りをつけ、小さながま口バッグを持っていた。

31歳とは思えない可憐な姿に思わず見とれてしまう。

「リンくん、甚平似合ってる。かっこいい。やっぱりそっちにして良かったね。」

一方衣緒は淡いグレーの生地にホワイトの細いストライプが入った甚平姿の鈴太郎を嬉しそうに見つめ、熱い視線が絡み合う。

「あ、ああ・・・初めて着たけどな・・・。」

衣緒の全身に視線を巡らせながら言うと、彼女は心配そうな表情になった。

「・・・やっぱり私、かわいい浴衣を台無しにしちゃってるかな?」

───リンくん顔歪めてる・・・せっかくこの浴衣選んでくれたのに、がっかりしてる?

「バカ。次そういうこと言ったら本気で怒るからな。」

衣緒のおでこに軽くデコピンをしながら言う。

───華やかではないけど、見た目も普通にかわいいのにな。

「・・・だって。」

「・・・その・・・惚れ直しちゃって何も言えなかった。」

「!!!」

「行くぞ。」

照れた顔を隠すように背を向けると動揺する彼女の手を引いて歩き出した。
< 231 / 253 >

この作品をシェア

pagetop