みずあめびより
「真中のやつ、あんなに驚いてたくせに、漫画みたいに食べ物を落とすことはしなかったな。」

「ふふ、そうだね。」

去年も歩いた川沿いの道を夜風に吹かれながら歩く。下駄のカランコロンという音が耳に心地良い。

「・・・ていうか、ああいうこと言われたら否定しろよ・・・。」

鈴太郎が立ち止まって言う。

「え・・・?」

「『彩木さんが夜這いを!?』とか言ってたやつ。否定しないと本当にそうみたいに・・・。」

「それでいいの。リンくんが・・・その、そういうことしたって思われるよりは。」

「よくねえよ・・・だって実際俺が、押し倒してキス・・・。」

出張の夜を思い出して二人共顔が熱くなってくる。

「・・・じ、実際はどうだったかなんて関係ないの。リンくんが『見損なった』とか『ハレンチ』とか言われてるのが嫌だったから。」

「だったら・・・『合意の上でした。』とか言えば良かったのかもな・・・。」

「・・・あ、そうだね。必死過ぎてそこまで考えられなかった・・・。」

「・・・ははっ。」
「ふふふ。」

「ま、あいつにはまた改めて話そう。」

「うん。」
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