みずあめびより

女性は授乳ケープをつけてから中でごそごそして甚平の前を開けているようだ。鈴太郎は目のやり場に困ってしまう。そんな彼を知ってか知らずか男性が話し始めた。

「俺達、この近くに住んでるんすよ。この川沿いの景色が好きで。でも、都会の駅の近くで家賃めっちゃ高くて・・・狭くて古いけど安いアパート見つけてそこ住んでるんす。家はボロいけど、住人の人が皆いい人なんすよ、スーバーも近いし。」

「そうなんだ。」

「俺、古着屋でバイトしてたんすけど、結婚してIT企業に正社員で就職したんす、営業職なんすけど。『スーツなんて着たくねー。』って思ってたし、『何で知らねージジイに頭下げなきゃなんねーの？』とか思ってたけど、人って変わるもんすね。結構向いてたみたいで。何気に成績いいんすよ。家族のために頑張ろうって思うし、単純に楽しいっていうか。」

鈴太郎は嬉しそうに話す男性を頼もしく思った。

「それは素晴らしいことだよ。世の中理不尽なこともあるけど、仕事が楽しいとか、この為に仕事がしたいとか、そういうものがあれば頑張れるし、結局それが良い結果に繋がるから。」

「あざーす！」