みずあめびより
衣緒は髪の毛と顔にネイビーのバスタオルを巻いて隠し、目だけが見えている状態だった。

昨日雨に濡れ乾かした洋服を着ていたが上下それぞれタオルと色の系統やトーンが似ていて、その姿はさながら女忍者、くの(いち)のようだった。

「あはは!出オチ狙ったの?」

「でおち・・・?」

テレビを持たない彼女はこのような用語に疎かった。

「登場した時、既に面白い状態のことだよ。」

「これは、髪がぐしゃぐしゃだし、すっぴんなので・・・。」

待たせて申し訳ないと思い、とりあえず服だけ着て、シャワー空きました、と言いに来たのだった。

「いや、だからって・・・ははは!」

───ほんと、真面目な顔して面白いこと言ったりしたりするから、シュールだよな・・・。

「・・・。」

───顔くしゃくしゃにして笑ってる。そんな素敵な笑顔見せられたらキュンキュンしちゃってどうしたらいいのかわからないよ・・・。

「・・・あ、さっき洗面所入ってごめん。」

思い出し、頭を下げて謝った。

「や、そんな、いいですから!心配して来てくださったんですし・・・。」

「・・・。」

「シャワー、お待たせしました。どうぞ。」

「洗面所で髪とメイクしてきたら?急がなくていいから。」

「でも・・・」

「また引っ張ってく?」

「・・・すみません。ありがとうございます。」

先程手を引かれて洗面所まで行ったのを思い出し恥ずかしくなり、俯いたままリュックからメイクポーチを取り出すと洗面所に向かった。

ポーチには全てのコスメが入っていたわけではないのでいつも通りの仕上がりとまではいかないが、なんとかなった。

部屋に戻ると鈴太郎は少し言いにくそうに言った。
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