みずあめびより
散々迷って選び抜いたパンを持ってレジカウンターに行くと、きれいな白髪の上品な老婦人が迎えてくれた。

「あら、今日はお友達も一緒なの?妹さんかしら?」

「いえ、会社で一緒に働いてて、昨日雨で家に帰れなかったので・・・。」

鈴太郎が答えた。

「おはようございます。とっても素敵なお店ですね。」

衣緒は心からそう言った。

「ありがとう。大変だったわね。昨日の雨すごかったものね。庭のお花も散っちゃって、お掃除大変だったのよ。」

「お庭があるんですね。」

「よかったら後でご覧になってみて。狭いけど、なかなか居心地いいのよ。」

老婦人は会計を始めた。

「私が払います。急に泊めて頂いて・・・。」

衣緒は財布を出して言った。

「いいよ。俺が勝手にしたことだから。」

「いえ、払わせて下さい。」

───お世話になった割には安いからまた後日何か・・・。

彼女がカウンターのトレーにお金を置くと同時に彼もお金を置いた。老婦人は鈴太郎の方のお金を受け取った。

「こちらはお返ししますよ。サラダとドリンクはあちらからご自由にどうぞ。」

にっこりしながら衣緒の手にお金を乗せた。

鈴太郎はお釣りを受け取るとトレーを持ちサラダとドリンクが置いてあるスペースに向かったので、衣緒も後に続いた。

「・・・すみません。ごちそうさまです。」

「俺が無理矢理連れてきて泊まらせただけだから、気にするな。」

鈴太郎はプチトマトを取りながら何てことないように返す。

「いえ、本当に助かりました。つぶやき情報見てみたら、電車動いたの午前3時くらいだったみたいだし。本当に何から何まで・・・。」

───今度何かご馳走させて頂こう、と思ったけれどそこでまた奢られてしまったりするかも・・・。何か買って渡そうかな。

二人はサラダとドリンクをとると窓際の席に向かった。

「いつもここに座るんだ。」

「・・・。」

衣緒は鈴太郎のプライベートな日常の中に自分がいることを嬉しく思った。

───今限定だけど、すごく幸せだな。
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