みずあめびより
食器とトレーを返却口に返すと庭に出た。

時刻は8時半になるところだった。空は雲ひとつなく、暑さはまだ本気を出していない。

「素敵なイングリッシュガーデンですね。」

衣緒はうっとりとして言った。

色やサイズが統一されていない様々な花々、奥に行くに従って高い植物が植えられたボーダーガーデン、テラコッタや陶器の鉢、木製のベンチなど、ナチュラルな魅力が溢れていた。

「うん。季節によって色々な花が咲いていて、いつ来てもいいんだよ。」

「日本とイギリスのガーデニングに対する考え方は似てるって本で読んだことあります。どちらも植物の自然の美しさを大切にするそうです。」

「いいな。会社の屋上もなかなかいいんだけど。」

「そうですよね。」

屋上で見た彼の姿を思い出した。もっと知りたいと思っていた彼が、今はこんなにも近くにいて、時間を共有している。

風が吹いて花や緑たちと共に二人の気持ちもさわさわと揺れた。

風で舞い上がった花びらが鈴太郎の髪に降りたった。

「髪に花びら、ついてます。」

「ん?」

彼は髪を撫でた。

「そこじゃなくて・・・私とります。」

近寄って背伸びをしてとろうとしてよろけてしまった。

とっさに鈴太郎が彼女の体を支える。衣緒が顔を上げると視線がぶつかった。
< 41 / 253 >

この作品をシェア

pagetop